モルドバには、どこでも同じ形で行われる単一の国民的伝統はありません。慣習は村や町の暮らし、家族関係、地域史、宗教暦、民族コミュニティ、社会状況の変化によって形づくられます。無形文化遺産(patrimoniu cultural imaterial、PCI)とは、コミュニティが自らのアイデンティティの一部と認識する、受け継がれた慣習や知識を指します。個人の所有権や著作権上の権利ではありません。 家族やコミュニティは、日々の参加、徒弟修業(ucenicie)、シェザトーレの集い(șezătoare)、相互扶助の共同作業(clacă)、博物館のワークショップ、学校、工芸機関、講座、キャンプ、祭り、アマチュア芸能団を通じて伝統を受け継ぎます。ホラまたはジョク(horă/joc)は、社交ダンスであると同時に、交流、若者の参加、音楽家、踊りへの誘いに結びついた地域の集まりでもあります。カーサ・マレ(Casa Mare)は、伝統的に織物、衣服、儀礼用具、持参品、家族の祝いのために使われる、最も美しく飾られた部屋です。慣習への参加は担い手と機会によって異なります。役割が決まった儀礼や家族内の儀礼に参加できる一般的な全国料金や自動的な権利はありません。 年中行事には、クリスマス前に行われるコリンダート(colindat)があります。通常は未婚の若い男性の一団(ceată)が家々を訪ねて歌い、贈り物や金銭を受け取ります。冬のその他の慣習には、ウラトゥル(uratul)、プルグショルル(Plugușorul)、プルグル・マレ(Plugul Mare)、マランカ(Malanca)、カプラ(Capra)、ウルスル(Ursul)、カラツル(Căluțul)、チェルブル(Cerbul)、セメナトゥル(Semănatul)、ソルコヴァ(Sorcova)があります。3月1日のマルツィショル(Mărțișor)は、赤白の糸またはお守りで、数日から数週間身に着けます。最初の花が咲く頃、またはツバメやコウノトリが戻る頃まで身に着ける人もいます。春・夏の慣習には、復活祭の行事、飾り卵、パスカ(pască)、ブランコ、井戸や泉の清掃、雨乞いをする子どもの一団パパルダ(Paparuda)やカロイアン(Caloian)、北部・中部のスンジエネレ(Sânzienele)または南部のドラガイカ(Drăgaica)があります。聖ゲオルゲの日(Sfântul Gheorghe)は伝統的な牧畜年の始まりを示し、聖霊降臨後の日曜日(Duminica Mare)とルサーリイ(Rusalii)には緑の枝や共同の贈り物を用います。モシイ(Moșii)と聖ドミトルの日(Sfântul Dumitru)は秋の周期に属し、伝統的に牧畜年の終わりを示します。食べ物は儀礼の担い手として、例えば儀礼用パンとして登場するのであり、独立した食文化の話題ではありません。 人生儀礼は出生、若者時代、結婚、死に伴います。出生関連の慣習には、スカルダトアレ(Scăldătoarea)、クマトリア(Cumătria)、1歳・7歳の祝いがあります。若者はイエシレア・ラ・ジョク(ieșirea la joc)、共同作業(clacă)、若い男性の一団(ceata flăcăilor)に参加することがあります。兵役への出発にも、独自の別れの慣習がありました。結婚の慣習には、ペツィトゥル(pețitul)、婚約(logodna)、返答の儀礼(răspunsul)、ブレドゥル(Breadul)、マルジェレレ(Mărgelele)、結婚式(Nunta)があり、その後、コラクル(Colacul)、カレア(Calea)、ラ・ゼアマ(La zeamă)、ラ・ティナーラ(La tânără)、ラ・フィオアレ(La fuioare)などを行います。ナナシア(Nănașia)、クマトリア(cumătria)、兄弟姉妹の契り(înfrățirea/însură țirea)は儀礼上の親族関係を表します。葬儀には、遺体を清めて着替えさせるプリメニレア(Primenirea)、通夜(priveghi)、地域の助け合い、9日目、20日目、40日目、半年後、最長7年間の年忌供養(pomeniri)が含まれることがあります。具体的な慣習は家族、コミュニティ、立場によって異なります。 衣服と織物の伝統には、複雑な肩刺繍を施した天然繊維の白い手縫いブラウス、アルツィツァ(altiță)があります。模様は地域、年齢、色によって異なり、家族の女性を通じて技術が伝えられることがよくあります。アルツィツァは2022年にユネスコ代表一覧に登録されました。その他の地元の衣服には、祝祭用シャツ(cămașă de sărbătoare)、首元に細かいギャザーを寄せたシャツ(cămeșă încrețită la gât)、肩刺繍付きシャツ(cămașă cu altiță)、民族シャツ(cămașă națională)、毛皮ベスト(bondiță)、胸当て(pieptar)、毛皮外套(cojoc)、ノースリーブ上着(ilic)、厚手の外套(suman)、粗布外套(burcă)、マント(manta)、長衣(zăbun)、革靴(opincă)、毛皮帽(căciulă)があります。ガガウズの衣服は独自の地域文化に属します。簡略化または機械生産された衣服は外観を保っていても、受け継がれた型に沿っているとは限りません。 ユネスコに2016年に登録された壁掛け絨毯づくりは、家庭の防護、装飾、持参品、葬送の節目を示すものとして用いられてきました。織りや関連工芸は、家族、協会、博物館、講座で教えられています。国の登録簿は、木工、石・金属加工、陶芸、植物繊維、皮革、毛皮、角、骨、織り、縫製、かぎ針編み、卵の装飾、儀礼用パン、仮面を含みます。例として、刺繍布(ștergar)、絨毯(covor)、粗織り敷物(lăicer)、毛布(cergă)、持参品箱(ladă de zestre)があります。石工芸の中心地は、オルヘイウ・ヴェキ(Orheiul Vechi)、コサウツィ(Cosăuți)またはソロカ(Soroca)と結びついています。 音楽と踊りには、村の集まり、踊り、祝いで伝統的にリズムと和声を担う、短い棹と木製胴を持つ洋梨形の撥弦楽器、コブザ(cobza)があります。コブザは2025年にユネスコ登録されました。その他の楽器には、縦笛(fluier)、長い角笛(bucium)、カヴァル(caval)、バグパイプ(cimpoi)、パンパイプ(nai)、太鼓(tobă)、牛声笛(buhai)、バイオリン(vioară)があります。熟練者から弟子への指導は、芸術学校や大学と並行して続いています。ホラとジョクの伝統は南部、中部、北部、左岸の地域で異なります。演目にはホラ(Hora)、スルバ(Sârba)、大きな踊り(Joc mare)、カラシュ(Călușarii)、結婚の踊り、仕事、動物、人生儀礼に結びついた踊りがあります。 地域・民族による違いは、この主題そのものの一部です。スンジエネレは特に北部・中部、ドラガイカは南部に結びつき、南西部に特有のものとして記録された慣習もあります。ガガウジアはガガウズの衣服、絨毯、歌、踊りを持つ自治区で、カスム(Kasîm)、ヘデルレズ(Hederlez)、ピピルダ(Pipiruda)などがあります。タラクリアではブルガリアの伝統が強く意識されています。国のカリキュラムは、ブルガリア人、ガガウズ人、ウクライナ人、ロマ、ユダヤ人、ロシア人などのコミュニティの歴史、文化、伝統を扱います。登録簿はモルドバ人またはルーマニア人に関する要素と他の民族集団の要素を区別するため、ある一つのコミュニティの慣習をモルドバ全体の規則として示してはなりません。 文化省、国立伝統文化センター(Centrul Național de Cultură Tradițională)、無形文化遺産国家登録簿(Registrul Național al Patrimoniului Cultural Imaterial)、学校、博物館、文化会館、地方当局、担い手コミュニティが記録、教育、保護を支えます。国立伝統文化センターは2026年5月20日に、無形文化遺産保存・振興国立センター(Centrul Național de Conservare și Promovare a Patrimoniului Cultural Imaterial)から名称を変更しました。法律LP58/2012は法律141/2025で改正され、市民には文化遺産を利用しアクセスする権利があり、コミュニティと担い手にはアイデンティティの表現、伝統の記録・振興、公式・非公式教育への支援の権利があります。研究では関係するコミュニティと協力し、特に脆弱または参加が制限される慣習について、その規範を尊重してください。 ユネスコ登録、国の登録簿、目録、記録、監視、非公式教育、アマチュア団体は継承を支えますが、地域での存続状況は異なります。都市での復興、講座、祭り、舞台団体は知識を保つ一方、慣習の場を変えることもあります。市場商品、メディア、移住、世代間の断絶により、慣習が簡略化されたり、本来の機能から切り離されたりすることがあります。家族や地域の儀礼に直接参加できない場合、博物館のワークショップ、学校活動、芸能団、祭りは、記録に基づいて学んだり体験したりする方法になります。季節、主催コミュニティ、材料、講座料、イベント費用は慣習や提供者によって異なります。
モルドバにおける伝統
モルドバの伝統は、家族、コミュニティ、学校、文化機関、徒弟制度を通じて受け継がれる、生きた慣習、象徴、表現形式です。年中行事や人生儀礼、宗教・家族の祝い、衣服、工芸、音楽、踊り、地域の慣習などがあります。南部、中部、北部、ニストル川左岸のほか、モルドバ人、ガガウズ人、ブルガリア人、ウクライナ人、ロマ、ユダヤ人などのコミュニティによって形が異なります。
ヒント
モルドバで参加方法を決める前に、具体的な伝統、コミュニティ、地域、機会を選んでください。家族や担い手が導く実践は生きた継承に最も近く、直接参加できない場合は博物館のワークショップ、学校、講座、芸能団、祭りが適しています。参加上の境界、季節、費用、材料、舞台化・商業化によって本来の機能が変わるかを確認してください。

